白髪が増えてきた
あれは小学校の卒業式の朝だっただろうか。人生で初めてドライヤーと整髪料を使い、どぎついセンター分けをしたときから、あれ?自分って髪、薄くね? と思うようになった。鏡の光が当たる角度によっては頭皮が思いっきり見えるその光景に子供ながらショックを受けたものだ。
きっと、乾燥した髪にドライヤーの熱をおもいっきり当て続けたせいに違いない。時間が経てば元通りさ!風呂上がりにふわっと仕上げればあんまり目立たないのだから。たまたまだ。子供の僕はどうにかして理由を見繕い、精神の安定を保とうとしていた。
それ以降、髪は染めない。整髪料はつけない。頭皮は強く洗わない。と無意識に髪をかばうようになり、38歳現在でも髪を染めたことは一度もない。子供の発想で言うならば、志村けんにはなりたくなかった。絶対にあだ名を「だっふんだ」とかにされるし、「志村、後ろ!」とか頭皮を指さされるに違いないし、「だめだ、こりゃ」とか言われんじゃないか。完全な被害妄想だ。でも子供って残酷だからそれぐらいのことはやりかねない、と当時の俺は思ったのだろう。
そうやって、丁寧に丁寧に、温室育ちのトマトのように、過保護に育ててきたのだ。ランニングから帰ったらティモテ。旅行先でもティモテ。股間にもティモテ。山田邦子が真似る薬師丸ひろ子ばりにチャンリンシャンしてた。
結局、38歳になった今でも、髪の毛の本数的にはあの頃となんら変わらない。不安が杞憂に終わったのは嬉しい限りだ。過保護にしたせいか、ただただ元々の髪が細かったからか。モルダー捜査官でも解決できない。Xファイル行き。
そんな、おりこうさんに育った髪が、
38年一緒に育ってきた髪が、
熟れに熟れて、
熟女どころか、おばあちゃんのように白くなり始めた。
今までにない本数で。ダイエットをして髪に栄養が行き届かなかったからか。寝る前に髪に話しかけてこなかったからか。シャンプーをやめて、安い牛乳石鹸でついでに頭も洗うようになってご機嫌斜めなのか。鼻毛はもっと白髪交じり。
光が当たると白髪はよく目立つ。あまり多くない髪の毛を抜くのにはかなりの抵抗がある。断腸の思いで白髪を抜き、若さを保とうとするも、髪の毛を減らしたショックで老けそうだ。